コロナウイルスの蔓延に端を発して、世界のあちこちで緊急事態宣言が出されました。それに伴い、健康のこと以外に大いに心配されるのが経済の停滞です。お金のことで汲々とするのはいいのか悪いのかとよく問われますが、お金がなければ暮らしていけないのは事実です。お金が世の中にも自分のところにも回ってこないのは不安ですし、誰もが避けて通れない話題です。
収入を得る手段としての仕事すなわち働き方のオプションも取り沙汰されています。企業に雇用される働き方が大半の中、勤務形態や残業の扱いのほか、リモートワークの推進についても徐々に検討が始まっています。一方、雇用を離れて自ら起業するという選択肢もますます注目されています。いかに働き、いかに収入を確保し、満足に暮らせるようにするかという問題が、幅広い視野で根本から問われ直しています。
「鼠穴」は、一面には、働き方(雇用か自営か)そのものと、お金を稼いで生きていくことに関する捉え方について江戸を舞台に描いたもので、「五貫裁き」とは正反対の特徴を持つ噺です。私自身の解釈を交えながら、筋を追うことにいたします。お楽しみください。
・噺の予備知識――――――――――――――
夢は五臓の疲れ
江戸の貨幣制度
さんだらぼっち
さし
・噺の流れ
起業 in 江戸
地べたを掘っても・・・
資本金を2年で13,333倍にした男!
わだかまりが解けて
最悪の事態
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・噺の予備知識
内容理解のために、前もって知っておくと便利なことがらを4つ紹介します。
夢は五臓の疲れ(煩い)
夢を見るのは、五臓の疲れが原因だということわざ。 五臓とは、心臓・肺臓・腎臓・肝臓・脾臓の五つ。心身ともに極度の疲労が蓄積すると、五臓のいずれかあるいはすべてに至るまで疲れ果ててしまい、その結果として夜眠っているときに夢を見るのだとする考え方が、はるか昔の日本にはあったようです。
江戸の貨幣制度
江戸時代は260年以上続いたため、関ケ原の直後と幕末とでは貨幣価値も大きく変わったはずです。したがって、現在の貨幣価値との直接比較はしにくいのですが、あくまでも感覚的にこの程度という概算をしてみます。
まずはこの図をごらんください。

1両=4分=16朱で、1分=1貫=1,000文です。文という単位のイメージを掴むため、「時そば」に出てくる夜鷹そばを考えると、1杯16文です。現代でいう立ち食いそばに近いでしょう。安いものだと1杯300円前後ですが、高いところでは1杯800円かあるいはそれ以上の場合もあります。中を取ってワンコインの500円前後と考え、計算しやすいように仮に16文=480円とします。
すると
1文=30円
1000文=1貫=1分=30,000円
1両=4分=120,000円
よって
10両=1,200,000円
1000両=120,000,000円
すなわち一つの千両箱には1億円以上が入っているイメージです。
さんだらぼっち(桟俵=さんだわら)
藁を編んで大きなシート状にしたものを丸めて筒状にしたのが米俵です。シートを丸めて筒の上下を折り畳んだだけでは口が開いた状態ですので、そこを蓋でふさいで縄で縛っておくことが必要です。そのときに使う蓋のことを桟俵といい、その俗称がさんだらぼっちです。丸い座布団のような形をしたもので、上下の蓋の両側をふさぎます。
さし
江戸の商家では、物を売り買いするときに小銭が山のように溜まりました。日常の買い物で多く使われた穴開き銭を、たとえば100文ずつひとまとめにしておけば便利です。そのときに使われたのが「さし」で、1本の藁をよく揉んで柔らかくして、それを縒ったものを紐として使いました。ごく安価なものですが、商家にとっては必需品だったといいます。

