鼠穴・・・資本金を2年で13,333倍にした男?!

資本金を2年で13,333倍にした男!

 わずか3文の元手で、一体何を仕入れて売ればいいものやら誰もが途方に暮れるところを、竹次郎は米屋に積んであった俵を見て思いつきます。俵は買えなくてもさんだらぼっちなら買えるかもしれない。あれをほどいて柔らかくして、さしを作れば売れるんじゃないか。

 とはいえ、3文で仕入れたものを加工して少々売ってみたところで大きな儲けが出るわけではありません。しかし現実に持っているものはそれしかないのですからひたすら続けるよりほかはない。噺にある通り、3文が6文、6文が12文・・・となっても、それを3日続けなければ夜鷹そば1杯すら食べられない。食うものも食わずにどう過ごしていたのか。またそもそも金もないのに住む家をどう探したのか。そのあたりは描かれていませんが、かなり壮絶な噺ではあります。やがてさんだらぼっちだけではなく大きな俵が買えるようになり、今度はそれをほどいて草鞋を作って売り、余った藁も無駄にせずにさしを作って売る。それを繰り返すうちにようやく商売の元手らしきものが貯まると、朝早くからあさりやしじみを売り、納豆売りをし、昼近くには豆腐を売り、午後からは茹で小豆を売り、夕方からはうどんやいなり寿司を売り・・・と、寸暇を惜しんで小さな商売に励みました。

 一日の商いを終えて帰ってくると、すっかり疲れ果てて倒れ込んだそのままの形で「夢を見る間もなく」眠り込み、そのままの形で翌朝目が覚めるという具合。そんな暮らしを2年続ける間に、10両のお金が貯まりました。上記の通り元手は3文(90円)で、それが10両(1,200,000円)になったのですから13,333倍です!

 途中のどこかの段階で、もっと効率の良い方法で増やすこともできたかもしれません。しかし、元々商売に関する知恵も勘どころも一切わきまえていない竹次郎が、持たざる者から持てる者に生まれ変わろうとする方法としては、ただひたすらできることに愚直に取り組むしかなかった。笑い話としての性格を備える落語とはいえ、その過程での竹次郎の必死さには胸を打たれます。

わだかまりが解けて

 3文を10両にして、まともに商売ができるようになった頃にはすっかり周りからの信用も得られるようになり、世話する人があって女房をもらいました。しばらくしてかわいい女の子も一人生まれました。やがて表通りに店を構え、奉公人も何人か雇えるほどになりました。そして10年後、深川蛤町に間口五間半、蔵も三つある立派な大店を構えるまでに成長しました。

 何もかもが順調でしたが、蔵のひび割れや鼠穴がずっと気にかかっていました。その手入れをするよう左官屋に言って急がせてほしいと番頭に言い残してから、10年ぶりに兄の店に向かい、元手の3文を返しに出かけました。

 店を訪れた竹次郎を兄は大いに歓迎しました。竹次郎は、3文とは別に2両の「利子」も添えて兄に差し出しました。それを見た兄は感慨深い思いで竹次郎に打ち明けます。

 「10年前にお前が商売の元手を借りに来たとき、いくら貸そうか迷った。だがあの頃はまだ、お前の腹には茶屋酒の味がしみ込んでた。3両もあれば1両くらいは前祝いに飲んでもいいだろうと、万が一にもそんなことを思ってしまってはとても商売は始められるもんじゃない。だから心を鬼にして、3文しか渡さなかった。きっと腹が立ったろう。もしもあの3文を1分にでも2分にでもして突き返してきたら、その時こそは20両でも30両でも貸してやるつもりでいた。お前が深川蛤町で立派な商人になったってことは、噂でよく聞いてたぞ。もしも10年前にたとえば3両や5両を貸していたら、今のお前はなかったかもしれん。とはいえたった3文しか貸してやらなかったことを今までずっと、かわいそうなことをしたと思っていたんだ。すまなかった、勘弁してくれ」

 そんな心遣いがあったことを初めて知った竹次郎。たとえ一時でも鬼のような兄だと恨んでしまったことを後悔し、あらためて兄に侘びました。

 お互いの胸につかえていたものも取れた二人は、何十年ぶりかに兄弟差し向かいで酒と肴を間にしてゆっくり過ごしました。したたか飲んで酔いが回ってくると、兄は竹次郎に泊まっていけと促します。しかし、自分の店を出てくる前に強い風が吹いていたのが気になっていました。店の蔵には鼠穴がいくつも空いていて、万が一店の周りで火事が起こったときのもらい火が恐いからと、泊まっていくのは遠慮しました。

 しかし兄は、もしお前の店が丸焼けになったって、店の再建費用には俺の身代をみんなくれてやってもいいからと引き止めます。財産をすっかり失ったとしても、それまでの経験や培ったノウハウの蓄積さえあれば、また一から商売を成り立たせる自信があったのでしょう。まだ兄ほどの実績のなかった竹次郎にはそれだけの自信はなく、不安だったものと見えます。しかし結局竹次郎は兄の言葉に従い、泊まっていくことにしました。

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